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仙台高等裁判所 昭和25年(う)122号 判決 1950年6月03日

被告人

石原敏子

主文

原判決を破棄する。

本件公訴を棄却する。

理由

弁護人川村彌永吉の控訴趣意第一点について。

原判決は、「被告人は伝染の虞がある淋病にかゝつていたにもかゝわらず昭和二十四年七月十日頃、八戸市高館米軍兵営附近松林内で米兵ケニースと性交したものである。」という事実を認定し、性病予防法第二十八条第一項を適用処断していることは論旨摘録のとおりである。しかるに性病予防法第二十八条第一項の罪は、親告罪であることが明らかなのであるが、記録上告訴権者である被害者米兵ケニースの告訴のあつたことを認むべき資料は存しない。もつとも記録には米軍憲兵隊長の、「日本裁判所で審理さるべし」との旨を記した書面が添付されているのであるが、右書面は、検察官に対する起訴要請の書面であること右書面が検察官から提出されていることにより明らかである。しかし起訴を受けた裁判所は、国内法によつて審理すべきは当然であるところ、米軍憲兵隊長は告訴権を有する被害者であるとは解せられず、又右書面の記載によるも同隊長が被害者から告訴の委任を受けた代理人と認めることはできない。しかりとすれば、本件公訴は手続がその規定に違反し無効というべきであるから、原審は刑事訴訟法第三百三十八条第四号により公訴棄却の判決をすべきであつたにかかわらず、不法に公訴を受理し、本案について審判した違法があり、従つて刑事訴訟法第三百七十八条第二号、第三百九十七条により原判決はこれを破棄すべきものである。

よつて刑事訴訟法第四百条但書により当裁判所において被告事件について更に判決をするに、本件公訴は前述の理由により棄却すべきものであるから、同法第三百三十八条第四号に則り主文のとおり判決する。

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